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日本経済の生産性、なぜ低い

 人口減、インフレで環境変化

2023年04月03日

内外政治経済

編集長
舟橋 良治

 日本の実質GDP(国内総生産)成長率は近年、先進各国に比べて低迷しており、その要因は低い労働生産性と投資額の推移にあった。低賃金の非正規雇用を活用できたため、労働生産性引き上げに向けた意欲が高まらなかった面は否めない。また全勤労者の7割を雇用している中小企業は投資の原資に限りがあるため、全体の投資額の足かせとなっていた。

 しかし、ここにきて経済環境が変化。非正規雇用が減少に転じ、人口減少が今後本格化する。輸入インフレの進行を受けて生産コストも上昇しており、経済を維持・拡大するには付加価値額の引き上げに向けた投資拡大、労働生産性アップが不可欠になっている。

労働投入はマイナスに

 まずはGDPをめぐる状況をおさらいしておきたい。2013年から2018年までの日本の平均成長率は米国の約半分で英仏独よりも低い。GDPへの寄与度をみると、後述する全要素生産性は見劣りしないのだが、労働投入と資本投入が小さいのは明らかだ。

主要先進国の実質GDP成長率と各要素の寄与度(2013-2018年)
図表(出所)OECDを基にリコー経済社会研究所

 労働投入については、生産年齢人口(15~64歳)が1995年をピークに減少しているため、寄与度が低かったのは致し方ない。高齢者や女性の労働参加拡大によってなんとかプラスを維持してきた形だが、今後は労働力人口が急速に減少する時期に入る。

2000年基準 労働投入の推移
図表(出所)内閣府を基にリコー経済社会研究所

日本の高齢者(65~69歳)労働力人口
図表(出所)厚生労働省を基にリコー経済社会研究所

日本の女性(15~64歳)労働力人口
図表(出所)厚生労働省を基にリコー経済社会研究所

 働き方改革法により労働制限が強化されて1人当たり労働時間が抑制されるため、労働投入はGDPのマイナス要因になっていくとみられる。

高い中小企業の比重

 資本投入が低かったのは、バブル崩壊を受けて企業の慎重姿勢が長く続いたほか、円高に対応した生産の海外移転も要因。加えて、産業界における中小企業の比重の高さも影響している。

 就業者数に占める中小企業の割合は米国が約5割だが、日本は約7割。これに対して中小企業が創出する付加価値の割合は全体の41%、同じく設備投資は27%、営業利益は22%にとどまる。

主要国就業者の中小企業の比率
図表(出所)あずさ監査法人「『アメリカ、イギリス及びドイツにおける中小企業政策と会計検査等の状況』に関する調査研究業務」を基に
リコー経済社会研究所

日本における中小企業の比重(2021年)
図表(出所)財務省法人企業統計を基にリコー経済社会研究所

 一般に中小企業は規模拡大のメリットを享受しにくく、投資の原資も限られているため、全体の投資額を抑える要因になってきた。

 日本の資本投入が近年制約されたもう一つの要因は、非正規雇用者の数と比率の拡大にあった。低賃金の非正規雇用者が増えると安価な労働力を活用できるため省力化投資の意欲が低下する。短期の非正規雇用者には人的投資も手控えられ、本来あるべきさまざまな投資が抑制されてきた可能性が高い。

知恵と工夫は遜色なし

 労働投入と資本投入に加えて、GDPに寄与するもう一つの項目が全要素生産性。これは、労働や資本といった量的に測れる要素ではなく、技術進歩や生産効率化など質的な成長要因。詳細な分析は難しいが、例えば労働と資本の投入量が同じでも、これらを上手に効率的に活用すれば、GDPを増やすのが可能になる。

 こうした要因を推計した日本の全要素生産性は他国と比較して遜色なかった。お金をかけずにいわば知恵と工夫でGDP増に結びつけたと言える。

 とはいえ、投入された労働を効率的に活用したかどうかの指標である労働生産性は、その低さが目立つ。2021年は経済協力開発機構(OECD)38カ国中で29位。2010年時点で日本は米国より約30%低かったが、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年には約40%低い水準まで、その差が拡大した。

主要先進国の労働生産性(GDP/年平均労働人口)
図表(出所)OECDを基にリコー経済社会研究所

 労働生産性は、付加価値額(もしくは生産量など)と労働投入量(労働者数もしくは労働者数×労働時間)で決まる。同じ労働投入量で高価格のヒット製品を生み出せば付加価値額が増えて労働生産性がアップ。また同じ製品を少ない人数で効率的に生産すれば労働生産性が上がる。ただ、効率化がされていないと労働強化になって働き方改革に逆行するのを忘れてはいけない。

付加価値の方が効果的

 ICTを活用した付加価値額の増加と、同じくICTを使った労働の効率化・省力化を比較すると、労働生産性に与える効果は、付加価値額に対する方が高いと考えられている。

ICT による生産性向上の効果
図表(出所)三菱総合研究所「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究報告書」を基にリコー経済社会研究所

 また、近年実現したイノベーションが増やした付加価値額を日米で比較すると、米国での大きさが際立っている。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時代、日本は付加価値の高い人気製品を世界各国に輸出していた。しかし、近年は非正規雇用の活用などを通じて人件費を削減し、収益を確保していた面は否めない。

日米イノベーションの実現度(大企業)
図表(出所)情報通信総合研究所「我が国のICT現状に関する調査研究報告書(2018)」を基にリコー経済社会研究所

 ICT活用やイノベーションなど付加価値額の引き上げにつながる投資を手控え、知恵と工夫に頼っていたのでは経済成長に限界があったのが明らかだ。

経営環境が変化

 低い経済成長の背景となっていた経済環境に変化が起きている。それは、人口の減少と物価の上昇だ。

 コロナ禍を受けた外出自粛などもあって非正規雇用が急減。さらに、労働人口が減少する中で労働投入量を支えてきた高齢者や女性の労働参加が今後、縮小していくことが予想される。人員を確保できなくなれば、これまで投資を控えてきた中小企業も省力化・省人化した生産への転換に向けた投資を迫られる。

日本の非正規雇用者数の推移
図表(出所)総務省を基にリコー経済社会研究所

 物価上昇への対応も避けられない。長く続いたデフレはロシアによるウクライナ侵攻や円安を背景に終わりを迎え、インフレが進行。原材料の調達コストが上昇している。業務効率化によるコスト削減や投資拡大を通じた付加価値額の引き上げ、労働生産性の改善を図る必要がある。

日本の中間財の価格(直近値:2022年11月)
図表(出所)日本銀行を基にリコー経済社会研究所

 特に雇用の7割を占める中小企業の投資拡大は日本経済にとって重要な意味を持つ。投資はそれ自体がGDPに寄与するだけでなく、新技術や新設備の投入により、全要素生産性を押し上げる。これまでの歴史を振り返ってみても、中小企業の投資が付加価値額や労働生産性のアップ、経常利益の増加と連動していたことが確認できる。

日本における中小企業の設備投資と各指標(ソフトウェア投資を含む)
図表(出所)財務省、総務省、日本銀行を基にリコー経済社会研究所

企業に高まる積極性

 中小企業など全国約1500社(経済団体や行政機関、金融機関を含む)を日本銀行がヒヤリング調査し、その結果を「地域の企業における労働生産性向上に向けた取り組みと課題―最近の環境変化への対応に着目して―」として昨年12月に公表した。

 それによると、生産性向上に対する企業の積極性が高まっている。その背景としては①人手不足感が高まっている②コロナ禍やデジタル化、脱炭素化などの変化が企業にプレッシャーやチャンスとして意識されている③原材料費の上昇が効率化や高付加価値化を促している④デジタル技術の発達と普及が企業による対応を可能にしつつある―ことが挙げられている。

 労働投入は人口減少の影響で伸びが期待できない一方、インフレで原材料コストが上昇している。経営環境の変化に対応した積極的な投資、付加価値額や労働生産性の引き上げが日本の今後を左右するのは間違いない。時代が大きな節目を迎えている。

 ※本稿はリコー経済社会研究所の以下の研究員による研究成果を編集したものである。佐藤 聡一主席研究員、武重 直人主任研究員、中澤 聡研究員、山本 晃嗣研究員、平井 優研究員

写真日本の生産性(イメージ)
(出所)stock.adobe.com

舟橋 良治

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